阪神圏大学非常勤講師労働組合

 

設立宣言


今日まで日本の高等教育は、私たち非常勤講師の存在を前提にして成立・発展してきた部分が小さくありません。劣悪な環境のなかでも、私たちは誇りを持って専任と同等の教育・研究上の責任を負ってきました。
  しかし近年の急激な大学再編は、ますます私たちを限界に追いこんでいます。黙っていたのでは、いずれ自らの研究生活を放棄せざるを得ない日がやってくるかもしれません。誰かがやってくれるだろうという期待は、結局誰もやってはくれなかったというあきらめを連れてくるでしょう。
私たちが要求しているのは最低限の社会的公正です。安心して教育と研究に専念できる条件です。私たちには、日本の高等教育を担う責務があるという覚悟と誇りをもって、ここに労働組合の設立を宣言いたします。
1999年5月16日
阪神圏大学非常勤講師労働組合


基本要求項目


【雇用について】
 雇用に対する非常勤講師の不安の原因はいうまでもなく、雇用が一年ごとに更新されることと、翌年度の雇用の可否が、非常勤講師の意志とは関係なく、教授会もしくは理事会に委ねられているということです。
 非常勤講師は、一年契約なのだから、来年度の出講を断られれば、それに従うほかないのでしょうか。じつは、パートタイマーや非常勤講師のような短期労働契約を結んでいる労働者にあっても、雇用者側は短期雇用形態をとりながら長期に渡って雇用することが一般的です。被雇用者にも長期雇用の期待が強く、その期待は誰が考えても尤もだというときには雇用者が契約更新を止めるには正職員の解雇の場合と同様の厳しい制約があるのです。

「整理解雇4要件」
(1)その解雇を行わなければ、企業の維持・存続ができないほどさしせまった必要性があること
 (2)解雇を回避するあらゆる努力が尽くされたこと
 (3)解雇の対象となる労働者の選定基準およびそれに基づく人選の仕方が合理的かつ公平であること
(4)以上について、労働者個人および労働組合に対し、事前に十分な説明をして了解を求め、解雇の規模、時期、方法などについて、労働者側の納得を得る努力が尽くされていること。

 また、形式的に「期間の定めのある雇用」の場合にも、雇用契約が何度か反復されている場合、この有期雇用は無期雇用に転化すると判例では見なされています。なぜかというと、反復更新がなされれば、労働者は「期間の定め」は一応の形式的なものであって特別の意志表示がない限り当然更新されるであろうと期待するのが当然だからというのです。
 ところで、労基法14条は「労働契約は期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものの外は、1年を超える期間について締結してはならない」としています。
 戦前は、長期の労働契約期間を設け、同時に中途で労働者が帰郷したなら損害賠償額を払わねばならないとしたり、紡績工場主や風俗営業主が農村から女性を採用するに当たって、親との間に前借り金契約を結び、その金額を女性が年季明けまでかかってやっと返せるようにして途中で逃げ出せない仕組みにしていました。このような人身拘束を許してはならないという趣旨で、「1年を超える」契約期間の禁止が1947年の労基法で明記されたのです。それが1970年前後から主婦労働力の積極的活用が進んで行く際に、人々の無知につけ込んで、景気が悪くなったとき契約期間の満了ということで「解雇権濫用」のとがめを受けずにパートタイマーを解雇するのに利用されるようになってしまったのです。
 ですから1年以内の期間の定めのある雇用契約は、もっぱら労働者を保護する立場からの規定なのです。つまり労働者から期限の満了を主張しない限り、雇用契約は継続し、使用者がこの関係を断つためには通常の解雇または退職の手続きをとらねばならないと考えるべきなのです。

 そこで、以下のことを要求します。

 より安定した雇用関係をめざすために、強権的な専任教員による指名解雇的な「雇い止め」や、大学のカリキュラムの再編を理由とする「雇い止め」を解雇として位置づけ、「整理解雇4要件」を満たさない解雇はしないこと。
 さらに、コマ数を一方的に減らされるのを防ぐために、来年度の出講条件に関して、組合と交渉することを要求します。コマ数を減らされてから交渉のテーブルにつくというのでは遅いので、後に述べる「教学への参加」とセットにして要求します。
また、新学期になって不開講とせざるをえなくなった科目についても、契約時の賃金を保障することなども要求します。

【賃金について】
 現行の賃金単価はどういう根拠に基づいて決定されているのでしょうか。
私たちは、もともと本務校を有する教員の出講手当にすぎなかったものが、そのまま本務校をもたない非常勤講師の賃金として横滑りさせられて来たと考えています。
 そして、非常勤という身分にも関わらず、専任教員と同等の教育と研究を期待されているのであれば、少なくとも専任教員並の、週6〜7コマ前後の担当時間数をもてば、基本的な生活が可能で、かつ研究生活も保障されるような賃金体系にすべきであると考えます。これについてはさまざまな試算がありますが、少なくとも現在の単価の倍程度は必要です。
 さらにコマ数と勤務年数に応じた一時金と退職金を要求します。
また、この点に関し、政府の補助金行政について検討することを要求します。

【教学への参加について】
 どこの大学においても教学の改革がすさまじい勢いでなされていますが、その際非常勤講師を不用になったら廃棄処分にする機械の部品としてではなく、専任教員と対等の立場に立つ教育労働者として扱うことを要求します。そのためにも、とりわけカリキュラム編成に際して、非常勤講師の意見を反映しうる組織を作ることを要求します。

【研究・教育について】
  教育者であると同時に、研究者としての位置づけを要求します。
(1)紀要への執筆を保障すること。
(2)研究・教育補助費(図書費・コピー費・教材補助費)を出すこと。

【社会保険について】
 各種保険への加入は、ただでさえ低賃金の非常勤講師の生活を圧迫しています。ですから私学共済への加入を要求しますが、それができない場合は、国民健康保険料や国民年金の掛け金の一部負担を要求すべきだと考えます。

【その他】
(1)次年度の担当時間割について、従来のように専任教員を通じて個人的に通知するのではなく、教授会の責任において、遅くとも10月中には通知すること
(2)産休を保障すること。
(3)数ヶ月にわたる病気休講については、それを解雇の理由とせず、補講もしくは集中講義による代替措置を認めること。
(4)掲示板を使用させること。   

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