非常勤問題


  1. 大学の非常勤講師って、なに?
     ある大学で教育活動をしているが、その大学の正規の教員ではないものを非常勤講師と言います。非常勤講師には、本務校のある非常勤講師(その大学の正規の教員ではないが、ほかの大学の正規の教員である)と、本務校のない専業非常勤講師があります。教育においても、研究においても、最も困難な立場に置かれているのが、本務校のない専業非常勤講師です。ですから、ここで非常勤講師というのは、本務校のない専業非常勤講師のことを指します。

  2. 阪神地域の大学に、非常勤講師はどれくらいいるのですか?
    阪神地域の大学で教育に携わっている専業非常勤講師の数ははっきりとは分かっていませんが、大変おおざっぱな推量で、2000名前後かと思われます。この数字は、関西大の学生数約25000人に対して、本務校のない専業非常勤講師数324名(1996年の資料)の割合を、関西圏の私大学生数に換算し、さらに、一人の非常勤講師が3校ぐらい掛け持ち出講しているとして3で割って計算した推定数です。実際には、下の最新の資料を見ても分かるように、採用している大学自身がきちんと把握していないので、分からないというのが本当のところです。
    大学名専任教員数非常勤講師数うち本務校なし非常勤依存率
    大阪音楽大103356345%
    大阪経済大120222119(54%)185%
    大阪経法大8890102%
    大阪工大・摂南大427516121%
    大阪産業大281
    大阪歯科大213384180%
    大阪樟蔭女子大105
    大阪千代田短大2357248%
    大阪女子学園短大18481267%
    大阪成蹊女子短大79255323%
    大阪電通大13321176(36%)159%
    大阪薬科大722636%
    追手門学院大119226190%
    関西大5851105189%
    近畿大531686370(54%)129%
    四天王寺国際仏教大128152119%
    阪南大112176157%
    羽衣学園短大3090300%
    梅花女子大・短大120213177%
    桃山学院大144243169%
    奈良文化女子短大3551146%
    高野山大323520(57%)110%
    神戸学院大185290157%
    関西学院大376726193%
    夙川学院短大56133237%
    神戸女学院大91281171(61%)309%
    合計42066572757平均
    推定数3549(54%)190%
    [2002年度版『近畿地区私立大学・短期大学労働条件等資料集』(大阪私大教連・兵庫私教連大学部編)より]

  3. 専任教員と非常勤講師の間には、どれくらいの賃金格差があるのですか?
     下の表を見てください。
    大学名教授(55歳)助教授(45歳)講師(35歳)非常勤講師
    大阪経済大68万8000円59万1500円43万1500円関西大の例
    一コマ(1時間30分)の月給
    特級、29200円
    A級、28400円
    B級、26200円
    C級、25200円
    D級、24400円
    大阪芸術大69万1700円55万1400円41万7800円
    大阪産業大69万3800円56万8600円42万5100円
    関西大68万1200円57万6600円45万600円
    近畿大69万6410円59万5470円44万5490円
    阪南大70万2100円59万200円43万4800円
    [同上資料集]

     一般的に、専任教員は週6コマ前後の授業を持っています。コマ数を同じにして計算すると、関西大の例で、非常勤講師(A級)の月給は、6コマで17万400円となります。これだけでも45歳の助教授との格差は3.38倍になります。専任教員は、月給のほかに月給5ヶ月分〜6か月分のボーナス、退職金、共済の大学側負担分などが追加されます。ボーナスを5.5か月分として計算すると、これだけでも年収は1009万500円となり、非常勤講師の204万4800円(非常勤講師にはボーナス、退職金、共済の大学側負担金は一切なし)との格差は、4.93倍となります。
     もちろん、専任教員の給与には、研究活動、校務活動などが含まれているわけですが、非常勤講師も、後述するように、研究活動なしに教育活動ができるわけではありません。ですから、こういったことを斟酌しても、5倍近い賃金格差というのは、異常というほかありません。みなさんは、どう思われますか?

  4. 非常勤講師の授業と専任教員の授業はレベルが違うのでは?
     大学が学生にわたす講義要綱の教員欄に、非常勤講師と専任教員の区別はまったくありません。つまり大学は、教育活動について、専任教員も非常勤講師も同等の教育活動ができると見なしているのです。
     大学が非常勤講師を必要とする理由はいろいろありますが、大きく分けて、二つあります。ひとつは、講義を担当できる専門家が専任教員にいない場合。学問分野にかかわらず、設置している学部・学科のすべての専門分野に専任教員を配置することは不可能ですから、こういう非常勤講師の存在は、当然必要でしょう。
     ところが、もうひとつの場合は、どう考えても、安上がりという発想から、生み出されたものでしかありません。たとえば、ある大学ではドイツ語のクラスが、毎年のように、30コマ開講されるとしましょう。ところが、たいていどの大学でもこの開講コマ数にたいして、専任のドイツ語教師は一人しかいません。残りの4人分はつねに非常勤が担当します。こういうことが、1970年代からずっと続いているわけですから、臨時的な措置というのは、当たりません。なぜ大学は残りの4人も専任教員として雇用しないのでしょうか? 言うまでもなく、上に述べたような賃金格差を考えれば、安上がり対策でしかないことは、はっきりしています。
     この4人の非常勤講師は、専任と同じレベルの授業をするために、教材研究をしたり、自分自身のドイツ語能力や教授能力を高めるためのさまざまの自己研修を行っているだけでなく、ドイツの文化や風土など教えるための研究なども行っています。もちろんカリキュラムの設定などは専任教員がしているにしても、少なくとも教育活動については、専任教員と非常勤講師の間に区別はありません。授業を受けている学生にとっても、5人とも同じドイツ語教師でしかないのに、その待遇は上に述べたように、月とスッポンの差があるのです。これはドイツ語の分野だけでなく、すべての分野について言えることです。こんなことが20年も,30年も続いていて、はたして大学を良識の府と呼べるでしょうか?

  5. 非常勤講師は、臨時雇用なのでしょうか?
     それはちがいます。私立大学では昔から開講授業の40%程度、芸術科目・語学授業では80%以上も非常勤講師によって担当されていることが、珍しくありません。日本の学生の8割は私学に学んでいるのですから日本の高等教育の中にしめる非常勤講師講義は全体の教育の質を左右する重みがあります。本務校のない非常勤講師の中には、10年20年の勤続年数をもつ人も珍しくありません。本務校のある人は、無理をしてまで非常勤に行くことはないのですが、本務校のない非常勤講師は、こうしなければ、生活がかかっているのです。
     次の表を見てください。
    <専業非常勤講師の勤務年数>
    年数人数割合
    1−5年5133.1%
    6−10年4227.3%
    11−15年2415.6%
    16−20年1912.3%
    21−25年127.8%
    26−30年3.2%
    31−35年0.6%
    合計154
    平均10.4年
    [京滋地区私立大学非常勤講師組合編『大学非常勤講師の実態と声2001』より]
     非常勤講師は、専任になるまでの橋渡しではなく、恒常的に存在する地位であるということが、お分かりいただけると思います。

  6. 非常勤講師はパートタイマーなんだから、大学が好きなように解雇できる?
     そんなことはありません。「パート」・「アルバイト」・「非常勤」・「臨時」などの名称がついていても、労働法上の労働者であり、労働法の保護を受けます。たとえば、スーパーのアルバイトに店長が「来月から来なくてよい」と口頭で言ったぐらいでは解雇できません。正当な理由がない解雇は「解雇権の濫用」として無効とされています。
     正当な理由とは
    @「会社の経営が悪くなって雇い続けられなくなった」とか「天災事変など止むを得ない理由のために事業が不可能のとき」といった経営側要因か
    A「勤務態度が著しく悪い」「横領など業務上の不正行為があったとき」といった労働者側の要因があるときです。

  7. 普通、非常勤講師は一年契約ではないですか?
     非常勤講師のような短期労働契約を結んでいる労働者でも、大学側は短期雇用形態をとりながらも、長期にわたって雇用することが一般的です。上の表を見てください。6年〜20年の勤続年数の非常勤講師が55.2%に達しています。非常勤講師の側も、当然のことながら、生活のために長期に雇用されることを強く期待しています。専業非常勤講師は非常勤のコマ数に生活がかかっているのですから、その期待は誰が考えてももっともなことですし、そのような場合には、雇用者が契約更新を止めるには正職員の解雇の場合と同様の厳しい制約があるのです

  8. では、どんな制約があるのですか?
     経営不振で解雇する必要があるという場合でも「整理解雇の四要件」と呼ばれるものがみたされていることが必要とされています。
    @ 会社の維持・存続を図るためにはどうしても人員削減が必要(余剰人員量の算定)で、かつそれが最も有効な手段であることを客観的に証明すること。
    A 新規採用中止・希望退職募集・残業削減・一時帰休・雇用調整給付金活用など解雇回避努力が尽くされていること。
    B どんな人を解雇するかの選定基準が合理的かつ公平であること(契約内容や生活状況の考慮等のことでありパート・非常勤と呼んでいるかどうかとは別)。
    C 労使間の協議をすること、すなわち再就職斡旋も含めて、解雇手続きが妥当なものであること、つまり解雇の必要性・規模・基準などについて労働者に十分説明し、納得を得る努力をしたこともそれに含まれます。
    以上の「整理解雇の四要件」は、一般パートタイマーの解雇反対運動の成果として確認されてきたものですが、もちろん非常勤講師にも当てはまります。

  9. たとえば、どんな判例があるのですか?
     1.形式的に「期間の定めのある雇用」の場合にも、雇用契約が何度か反復されている場合、この有期雇用は無期雇用に転化すると見なした判例としては、「東芝柳町工場事件」(1974年)があります。
     2.基本的に解雇回避の努力をすべきであって、希望退職者の募集や余剰人員確定の努力をせずにパートというだけで「雇い止め」解雇することは無効とした判例としては、大阪地裁「三洋電機事件」(1991年)があります。
     3.更新が繰り返された女性臨時社員の一方的雇い止めは解雇権濫用であり無効としたのみならず、パートに対しても正社員と同様の整理解雇の四条件を満たすことが必要との判断が示された判例としては、長野地裁上田支部「丸子」判決(1997年10月)があります。
     4.使用者の整理解雇権が認められる場合にも、単にパートとしての取扱を受けていただけで解雇対象者の第一順位とすることは合理的な理由がないとした判例(名古屋地裁「東洋精機事件」1974)もあります。
     5.1989年の京都地裁の「壬生寺保育園事件」では、有期雇用にするにはその必要性と有効性が存在せねばならず、保母の雇用期間を1年と決めた定めそのものが違法であり、労働関係の終了は解雇の法理に基づく必要があるとされました。したがって、契約更新が何回かあった上で解雇しようとする場合、解雇予告の手続きや解雇の正当な理由が必要になります。つまり反復更新後の形式的な「契約期限切れ」による「雇い止め」は法的に違法となることになります。
     ですから、非常勤講師の皆さん、大学からの一方的な「雇い止め」通告を受けたら、泣き寝入りをせずに、しっかりと拒否の態度を表明しましょう。そして、私たち非常勤講師組合にご相談ください。

  10. 雇用契約書がないのですが
     大学側に働きかけて、雇用契約を書面で交わすようにしましょう。私たちの組合でも、団交の機会に、雇用契約書を作るように要求しています。その結果、関西大学では平成14年度から、雇用契約書によって、雇用契約を交わすようになりました。雇用契約書がないと、なにかのトラブルが起きたときに、労働基準監督署に相談に行っても、どうにもできないと言われてしまいます。もちろん裁判ということになれば、話は別ですが。

  11. 雇用契約書の内容がひどいのですが
     たしかに大学によっては、まったく大学側の都合のいい雇用契約書を提示してくることがあります。この場合でも、まず勤務継続の意思をきちんと表明した上で、納得できない個所を具体的にピックアップし、できれば対案を提示するようにしましょう。勤務の意思を明確にしないで、内容が気に入らないからと雇用契約書への捺印を拒否しつづけるのはよくありません。
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